2024年度入試を振り返る2025年度入試の展望
国が進める高等教育改革
文部科学省は現在、高等教育改革をすすめています。とくに私立大では2024年度からの5年間を集中改革期間と位置づけ、財政支援を通じて、大学の統合・廃止、学部の再編などをすすめようとしています。ここでは主な2つの施策を挙げて説明します。
1つ目は理系人材強化に関する施策です。理工農学系学部の設置を目指す公立大・私立大や、情報系学部・大学院の体制強化をする大学には財政的な支援があります。情報系の強化では原則認められていない国立大の学部の入学定員増も認められます。また理工系では女子学生が少ないとして、女子学生の確保に積極的に取り組む大学にも支援があります。近年増加している女子枠はこの施策に沿ったものです。
2つ目は私立大を対象とした、変化を乗り越えるための構造転換をサポートする施策です。文部科学省の試算によれば、急速に進む少子化で現在の私立大学・短大910校のうち2割弱に当たる170校が2040年代には不要になってしまうとのことです。そこで文部科学省は私立大に構造転換を求め、それを支援するとしています。具体的には3つの方向性が示されています。学部転換や意欲的な経営改革を行う大学を財政的に底支えする「チャレンジ」、他大学との連携・統合を通じ、効率化を図る大学を支援する等の「連携・統合」、募集停止後も教育研究活動が継続できる助成金を支給し、不採算・定員未充足の解消を促す「縮小・撤退」の3つです。
2025年度入試にもすでにこの高等教育改革の影響が見えます。①では来春は筑波大、横浜国立大、大阪大、神戸大、広島大などの情報系学部・学科で入学定員増があります。②では、2024年5月時点で17大学が2025年度から推薦・総合型で女子枠を設定するとしています。③では桃山学院教育大が桃山学院大へ統合されます。④では私立大のルーテル学院大、高岡法科大が、短大では上智大短大部など23校が募集停止します(5月末現在)。⑤では追手門学院大(理工)や安田女子大(理工)などこれまで理工系学部を有していない大学での新設がみられます。
2025年度入試でみえること
- ①国立大の入学定員増
- ②理工系学部での女子枠(推薦・総合型)設置
- ③私立大の大学統合
- ④私立大・短大の募集停止
- ⑤公立大・私立大の理工系学部の新設
このほか、2025年度入試の注目ポイントを挙げると、来春は京都大(法)をはじめ、京都工芸繊維大や長崎大(薬-薬)などが後期日程を廃止します。また、神戸大では新たにシステム情報学部を新設します。神戸大以外にも秋田大(情報データ科学)、山形大(社会共創デジタル)、私立大では関西大(ビジネスデータサイエンス)など来春も情報系学部の新設が目立ちます。
修学支援新制度は機関要件厳格化、対象者は拡大
修学支援新制度は2024・2025年度も、支援対象者や機関要件(学校側の要件)が変更となります。
支援対象者は拡大します。2024年度は住民税非課税世帯とそれに準ずる世帯に加え、多子世帯や私立理工農系の中間所得層に対象を拡大しました。さらに2025年度からは、多子世帯は所得制限なしで一定額まで授業料などが無償化されます。
一方、機関要件(学校側の要件)は2024年度から厳格化されます。この変更に備えて2024年度から定員を減らす大学が見られました。対象外になってもすでに在学している学生の支援は無くなりませんが、来年度入学する学生は支援が受けられなくなるため、注意が必要です。
教科「情報」を過度に恐れる必要はない
2025年度より入試で教科「情報」の出題が広がります。まずは国公立大についてです。共通テスト「情報」は国立大の9割以上が必須としており、多くの国立大が共通テストでは情報を追加した6教科8科目を課すことになります。公立大では情報を必須とするのは半数未満で、他教科との選択や利用しない大学の方が多くなっています。さらに共通テスト「情報」の配点を見ると、6教科8科目を課す大学のうち、6割以上の大学が情報の配点比率を他教科より低くしています。2次試験で教科「情報」を使う大学はごく一部となっており、2次試験まで含めた総点でみれば、教科「情報」の影響はさらに小さいといえます。国公立大を志望する場合、共通テスト「情報」の受験は必要ですが、合否への影響は一部の大学を除けば小さく、むしろほかの教科の対策が重要になってきます。
私立大の共通テスト「情報」は国公立大とは異なり、ほとんどの大学が選択科目として利用します。しかも複数ある方式の1つとして実施する程度にとどまります。個別試験では教科「情報」を出題する大学はいくつかみられますが、こちらも「情報型」などと銘打って専用の入試方式を用意するという形です。
2025年度入試の展望
最後に2025年度入試の展望についてお伝えします。入試の環境では18歳人口増加により、大学志願者数は増加を見込んでいます。この間、私立大を中心に学部再編、入学定員減などの動きが加速するため、一時的ではありますが、学部系統によっては今春より倍率が上がるかもしれません。一方、新課程による変化は限定的です。大学個別試験は、各教科とも出題範囲に大きな変更はありません。先ほどお伝えした通り、国立大では共通テストに教科「情報」が加わりますが、多くの大学では配点比率は低めに設定されています。情報の対策は必須となりますが、合否により影響するのは既存教科であるケースが多くなっています。
大学は今後数年で大きく変わろうとしています。目先の合格だけでなく、進学後、大学卒業後を見据えた大学・学部選びが重要です。学生への支援拡大に加え、長期的には競争緩和により、大学に入りやすくなっているからこそ、進路を丁寧に検討することが大切になっています。
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